Akosmismus

Me, poor man, my library was dukedom large enough.

愛は液体である――『ヨスガノソラ』における概念メタファーについて

0. まえおき 1. 概念メタファーについて 2. 『ヨスガノソラ』における概念メタファー 2-1.「世間は空である」 2-2.「愛は液体である」 3. 洪水型兄妹始祖神話 4. 結論 0. まえおき きょうは『ヨスガノソラ』の春日野穹シナリオについて*1。穹シナリオとはこ…

入間人間の手口はほんとうにわかってきたのか?

saize-lw.hatenablog.com 興味を惹かれるタイトルだったのでこの記事を読みました。なるほど、というとこもあり、うーん?というとこもあり。以下読んで思いついたことを書きます。 LW さんの主張は大まかに以下の通りです。 1. 小説には「対立」が必要であ…

おすすめのミステリについて

akosmismus.hatenadiary.com これのミステリ版を作れといわれたので作ります(というかおすすめ SF についてももう 5 年前だしあれからいままでに読んだ面白かったやつを追加したいですね。まあそのうち)。ていうかこれも作品名だけ列挙しておすすめの理由…

ちくま文庫の『マッカラーズ短篇集』について

マッカラーズ短篇集 (ちくま文庫 ま-55-1) 作者:カーソン・マッカラーズ 筑摩書房 Amazon ちくま文庫から『マッカラーズ短篇集』がでました。 これがどういう本かというと、「編訳者解説」によれば 本書はカーソン・マッカラーズ『悲しき酒場の唄』(西田実…

人称代名詞と文法的性について

「つぎのようなシーンを考えていただきたい。ある博士がお昼ご飯を選ぼうとして食堂のメニューの前に立っている。彼女は昨日の晩ご飯がハンバーグだったことを思い出し、きょうは魚にしようと考えた。さて、このとき……」 論文を読んでいるとうえのような文章…

世界の終りの終り――叔父の遺産、南極への旅

以下は Jonathan Franzen "The End of the End of the World" の全訳である。 ジョナサン・フランゼン Jonathan Franzen は現代アメリカ最高の作家のひとりで、代表作である『コレクションズ』をはじめ複数の作品が日本語に翻訳されている。家族の悲劇と現代…

『めぞん一刻』(あるいはやきもちのパラドックス)について

めぞん一刻〔新装版〕(1) (ビッグコミックス)作者:高橋留美子小学館Amazon 0. 導入 1. 定義 2. やきもちの効用 2.1 進化論的効用 2.2 心理学的効用 3. ラブコメとやきもちのパラドックス 4. やきもちの正当性について 5. 諸三角関係について 1 5.1 (五代 …

『赤村崎葵子の分析はデタラメ』「ドネーションを分析する」を分析する

akosmismus.hatenadiary.com 続きますとかいってから一年以上が経ってしまいました。すみません。というわけで続きからやっていきましょう。今回は「分析 2 ドネーションを分析する」です。どういう趣旨の企画かは上の記事の 0. を見てください。 1. 「ドネ…

去年書いた小説について (2)

まえのやつの続きです。 桐始めて華を結ぶ 結華って「推しに一早く認知されること」が特技らしいです*1。その割に結華のことを知っているアイドルの描写ってあんまりありません。美琴も結華のことを「認知」はしてないみたいですし(「アイドル同士の会話:…

去年書いた小説について (1)

去年はむっつも小説を書きました。えらい。うちいつつはアイドルマスターシャイニーカラーズの二次創作です。二次創作は生まれてはじめてやった(ちょっと嘘)んですが、原作パワーかいつもよりみんなが読んでくれてうれしかったです。 ところで小説のあとが…

実家の犬が逝った。2006 年 3 月1 日生まれの赤の柴犬で、十五年とちょっと生きた。名前はジョンといって、これはレノンが由来だが、途中からロックだったことになって、わたしのペンネームもロックから取ることにした。まあ、レノンもロックのジョンだけど。…

理想の犯人当てについて

さいきん犯人当てミステリを書いて公開しました。以下は寝言です。 0. 消極的要件 理想の犯人当てがすべからく有すべき性質とはなにかと問われたら、たいていのひとは論理性とか解の唯一性とか、ちょっとキマってるオタクなら健全性と完全性とか答えるのでは…

チャック・パラニューク『サバイバー』とみっつの奇跡

サバイバー (ハヤカワ文庫NV) 作者:チャック パラニューク 発売日: 2005/02/01 メディア: 文庫 0. ブラックボックスがある男の半生を語りだす。飛行機をハイジャックして、乗客全員とパイロットを降ろしたあと、ひとりで機内に残って墜落を待ちながら、ブラ…

『赤村崎葵子の分析はデタラメ』「ラブレターを分析する」を分析する

技巧的な論証は、ほかの技巧的なものがすべてそうであるように、ただ選択の問題です。何を話し、何をいい残すかを心得ていさえすれば、どんなことでも好きなように、しかも充分に説得力をもって、論証することができるものですよ。 ——アントニイ・バークリー…

記憶と思い出について、あるいは金魚と腹痛と短編小説

始皇帝 中国は広い国だ。秦の始皇帝は紀元前三世紀にこれを統一したという。あれだけ広大な土地をひとりの男が支配するというのは、じっさいにはどういう現象なのだろうか。わたしが支配しているといえそうなのは都内の七畳程度のワンルームにすぎないが、と…

ヤスミナ・カドラ『カブールの燕たち』

カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット) 作者:ヤスミナ・カドラ 発売日: 2007/02/23 メディア: 単行本 ブックプラネット全部読む第 2 弾 كابلがカーブル表記じゃないと全身がムズムズしてくるが、フランス語だと Kaboul なんですね、じゃあカブ…

デイヴィッド・マークソン『ウィトゲンシュタインの愛人』

ウィトゲンシュタインの愛人 作者:デイヴィッド・マークソン 発売日: 2020/07/17 メディア: Kindle版 つまら~ん。 『論考』の世界観をパロディしたというよりは、論考を最大限に誤読したアホの世界観をパロディしたようなかんじがする。論考の独我論を現象…

パオロ・ジョルダーノ『素数たちの孤独』

素数たちの孤独 (ハヤカワepi文庫) 作者:パオロ ジョルダーノ 発売日: 2017/02/28 メディア: Kindle版 ハヤカワ epi ブック・プラネットという海外文学の叢書がかつてあって、2007 年から 2010 年のあいだに 16 冊刊行して終わった。名前からして明らかなよ…

David Foster Wallace "Good Old Neon" について(続き)

前回の続き。 2. Good Old Neon について(もうちょっと細かく) クリシェがクリシェとしての身分を獲得するのは、それらがあまりに明白に真実だからである。 ——デイヴィッド・フォスター・ウォレス(Infinite Jest, p. 1040) 2.1 GONe と明白な隠喩 隠し立て…

David Foster Wallace "Good Old Neon" について

0. David Foster Wallace について デイヴィッド・フォスター・ウォレス David Foster Wallace (DFW) は 1962 年 2 月 21 日生まれのアメリカ人作家で、生年月日がチャック・パラニュークとおなじなのだが、パラニュークとの共通点は生年月日だけでない、実…

「生者の妻たち」?――ホーソーンの「死者の妻たち」における夢の不在について

以下はMark Harris の The Wives of the Living?: Absence of Dreams inHawthorne's "The Wives of the Dead*1" の全訳である。 「生者の妻たち」?――ホーソーンの「死者の妻たち」における夢の不在について マーク・ハリス 不相応にも無視されてきた「死者…

『宇宙の妖怪たち』

宇宙の妖怪たち (1958年) (ハヤカワ・ファンタジイ) 作者:中村 能三 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1958 メディア: 新書 銀背。函つきで 200 円だったので嬉しくなって買ったが函を綴じてるホチキスが錆びてて本の地がつぶれてたりした、悲しい。函は輸…

『なめらかな世界と、その敵』

なめらかな世界と、その敵 作者: 伴名練,赤坂アカ 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/08/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 「なめらかな世界と、その敵」 ★★★★ 葉月*1はなぜK056をばらまくという決断をしたのだろうか。幼馴染のマコト…

フランク・ノリス『マクティーグ』

マクティーグ (ルリユール叢書) 作者: フランクノリス,Frank Norris,高野泰志 出版社/メーカー: 幻戯書房 発売日: 2019/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 読んだ。面白かった~~。ルリユール叢書は(いちおう前に出た二冊も買ってあるの…

陸秋槎『元年春之祭』について

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ) 作者: 陸秋槎 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/09/15 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る ネタバレ注意:未読の人間が読んでも得るところは一つもないので興味本位で見ることも薦めない。 要約:本書は…

『危険なヴィジョン 1』

危険なヴィジョン〔完全版〕1 (ハヤカワ文庫SF) 作者: レスター・デル・レイ,ロバート・シルヴァーバーグ,フレデリック・ポール,フィリップ・ホセ・ファーマー,ミリアム・アレン・ディフォード,ロバート・ブロック,ハーラン・エリスン,ブライアン・W・オール…

米沢穂信『I の悲劇』

Iの悲劇 作者: 米澤穂信 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2019/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る ネタバレ注意(ていうかここは常にネタバレとかそういうのを一切気にしない)

『中世思想原典集成 精選 6』

中世思想原典集成 精選6 大学の世紀2 (平凡社ライブラリー) 作者: 上智大学中世思想研究所 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2019/09/12 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る トマス・アクィナス「知性の単一性について」De unitate intellectus co…

『カート・ヴォネガット全短篇 2』

カート・ヴォネガット全短篇 2 バーンハウス効果に関する報告書 作者: カートヴォネガット,大森望,100%ORANGE,浅倉久志,伊藤典夫,宮脇孝雄,円城塔,鳴庭真人 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/11/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 10 …

スティーヴン・ミルハウザー『私たち異者は』

私たち異者は 作者: スティーヴン・ミルハウザー,柴田元幸 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2019/06/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 9 月 29 日読了。 「平手打ち」★★★ 裕福なサラリーマンが住む町に「連続平手打ち魔(シリアルスラッパー…