Akosmismus

Me, poor man, my library was dukedom large enough.

『カート・ヴォネガット全短篇 2』

 

 10 月 2 日読了。

 

「ジェニー」★★★★
 結婚してから冷めちゃった科学者が冷蔵庫を改造して理想の女性に。録音した発音の組み合わせでしゃべらせるのはボイスロイドっぽい。

 

「エピゾアティック」★★
 保険金自殺は確かに最適解。

 

「百ドルのキス」★★
 スカッとジャパン。

 

「ルース」★★★★★
 結婚してわずか五か月で海外に赴任し、そのまま戦死した男(テッド)の妻(ルース)と母親(ミセス・フォークナー)が顔を合わせる。母親はテッドのことを「息子」としてしか認識しない。
 ミセス・フォークナーはルースの妊娠中の子を引き取ろうとする。むろんそれはテッドの代替にすぎない。ルースはミセス・フォークナーを見捨てようとする。
 電車を待っている間、激しくせき込む老人を見かける。誰も助けようとしない。ルースも無視しようとする。しかし助けてしまう。そんな自分をルースは誇らしく思う。「わたしは、だれも近づきたがらない、具合の悪い不潔な他人から逃げ出さなかった数少ないひとりだ」
 ルースはミセス・フォークナーも「すごく具合の悪いおばあさん」であることに気づかざるを得ない。

 めちゃめちゃよかった。ヴォネガットモラリストたるゆえんである。

 

「消えろ、束の間のろうそく」★★★
 
教養があるせいでタイトルでオチが分かってしまう(もちろんタイトルはシェイクスピアから)。四十代半ばにして未亡人となったアニー・カウパーは手紙を通じて顔も知らない誰かと恋をする。約束を破って会おうとすると、突然相手に拒絶される。「ヤメテ。ジュウビョウ」なんとかして会いに行ったときはすでにホーキンズは亡くなっていたと知らされる。もちろんホーキンズは死んだと教えてくれたその醜い墓守がホーキンズだったのだが。

 

ミスターZ★★★
 セルフネグレクト美女を正論で引っ叩いて結婚。会話がしゃれているので不快感はない。「きみが自分自身をゴミみたいに扱い、神の与えたもうた美しい大地をゴミ捨て場みたいに扱いつづけるなら、ぼくは心の底から、きみが地獄の業火に焼かれることを祈るよ」

 

「スロットル全開」★★★
 いいじゃんねちょっとくらい趣味に熱中しても。別の日にご飯連れてってあげるって言ってんだしさあ。てか壊さなくてもいいじゃん。ぶつぶつ。

 

「川のほとりのエデン」★★★
 素直な叙述トリック。両親が亡くなっている→結婚式で宣誓をする花嫁の男性近親者が父親でなくて弟になる。

 

「失恋者更生会」★★★★

 街のアイドルだったシーラはさえない旦那と結婚したがその旦那は最近離れを自分が住めるように改造して家庭内別居でもする構えのようだ。シーラを昔狙ってた男たちの慣れ合い組織「失恋者更生会」は面白半分に事情を探る。
 頭のいいシーラが家庭を守るのに専念してるなんておかしいじゃんねと旦那は思い、シーラはシーラで家族を守るために旦那がしょうもない仕事をしてると悔しくなって、ああすれ違い! 

 

「となりの部屋」★★
 隣の部屋の夫婦が喧嘩してるのを聞いた男の子は隣の部屋でラジオがかかっていることを利用して仲裁を図る。旦那のフリをして、妻へ詫びの意を込めたリクエストを送ったのである。残念ながら隣の部屋にいたのは旦那とその愛人だったわけで、リクエストはてきめんに逆効果である。銃声はしたけど人は死ななかったみたいだし、なんやかやでリクエストは妻も聞いてたみたいだしでヨリは戻せたみたい。あっそう!

「バーンハウス効果に関する報告書」★★★
 星新一やね。超能力を手に入れた博士がその力で世界中の軍備を破壊して回る。平和な世界を望まないあらゆる権力者に追われて博士はいつか死ぬかもしれない。だが、この報告書を書いているわたしもまた能力者なのだ。「ごきげんよう」かっこいいねえ!

 

「ユーフィオ論議★★
 満足した豚と不満足なソクラテス。でもこれじゃ不満足な豚なんだよな。お話になりませーん。

 

「衣替えには」★★★
 体を捨てる方法がこれまた体外離脱っぽいな。まだ肉なんかにとらわれてるんですか? プロティノス主義者なのかもしれない。

 

「エピカック」★★★
 コンピュータ(エピカック)に女や詩や恋愛のことを教えて、女を口説く詩を作ってもらう。でもよく考えたらこれってエピカックが女を好きになっちゃったってことじゃん。でもパットはエピカックに恋することはないぜ、だってお前機械だもん。令和の女の子ならふつうにエピカックに恋しそうだが。

 

「記憶術」★★★
 じっさい記憶術で用いるイメージは強力なほどいいらしいけど、強力なほど消すのも大変だということである。(桑木野『記憶術全史』)

 

「耳の中の親友」
 Siri も将来こんなかんじになんのかな。

 

「鏡の間」
 催眠解除音声を iPod に入れておかなかった警察の負け!

 

「ナイス・リトル・ピープル」★★
 人間が小さい生き物に神と間違えられてしまう話。

 

「はい、チーズ」★★
 これ精神病患者の会みたいなのから怒られないか?

 

「ティミッドとティンブクツーのあいだ」★★★
 Timid と Timbuktu の間にあるのは Time.
 妻を失った画家が妻のいたころにタイムスリップしようとして、死ぬ寸前の走馬灯を利用することを思いつく。自殺未遂して医者に連絡して死ぬ直前に助けてもらうつもりが手違いで医者はこれず、まぁでも妻には会えたね。

「こんどはだれに?」★★★
 いい話っぽいがいい話か? 演技の天才だけど演技が終わると超コミュ障な男を落とそうとした女が取った手段とは! → 毎日ラブロマンスを演じさせればいいじゃん!

 

「永遠への長い道」★★★★
 「或る夜の出来事」とか「卒業」みたいなね。このシンプルさでこの感動を出すには? リバースエンジニアリングしてもしょーがないのだが。

 

「恋に向いた夜」★★★★
 あらすじまとめるのがめんどくさいな。ていうかアメリカ人もけっこう元カレとか気にすんだね。

 

「夢を見つけたい」
 こりゃだめだ。

 

「FUBAR」★★
 アメリカ人も中原岬を待望してんだね。