Akosmismus

Me, poor man, my library was dukedom large enough.

書評

『めぞん一刻』(あるいはやきもちのパラドックス)について

めぞん一刻〔新装版〕(1) (ビッグコミックス)作者:高橋留美子小学館Amazon 0. 導入 1. 定義 2. やきもちの効用 2.1 進化論的効用 2.2 心理学的効用 3. ラブコメとやきもちのパラドックス 4. やきもちの正当性について 5. 諸三角関係について 1 5.1 (五代 …

『赤村崎葵子の分析はデタラメ』「ドネーションを分析する」を分析する

akosmismus.hatenadiary.com 続きますとかいってから一年以上が経ってしまいました。すみません。というわけで続きからやっていきましょう。今回は「分析 2 ドネーションを分析する」です。どういう趣旨の企画かは上の記事の 0. を見てください。 1. 「ドネ…

チャック・パラニューク『サバイバー』とみっつの奇跡

サバイバー (ハヤカワ文庫NV) 作者:チャック パラニューク 発売日: 2005/02/01 メディア: 文庫 0. ブラックボックスがある男の半生を語りだす。飛行機をハイジャックして、乗客全員とパイロットを降ろしたあと、ひとりで機内に残って墜落を待ちながら、ブラ…

『赤村崎葵子の分析はデタラメ』「ラブレターを分析する」を分析する

技巧的な論証は、ほかの技巧的なものがすべてそうであるように、ただ選択の問題です。何を話し、何をいい残すかを心得ていさえすれば、どんなことでも好きなように、しかも充分に説得力をもって、論証することができるものですよ。 ——アントニイ・バークリー…

ヤスミナ・カドラ『カブールの燕たち』

カブールの燕たち (ハヤカワepi ブック・プラネット) 作者:ヤスミナ・カドラ 発売日: 2007/02/23 メディア: 単行本 ブックプラネット全部読む第 2 弾 كابلがカーブル表記じゃないと全身がムズムズしてくるが、フランス語だと Kaboul なんですね、じゃあカブ…

デイヴィッド・マークソン『ウィトゲンシュタインの愛人』

ウィトゲンシュタインの愛人 作者:デイヴィッド・マークソン 発売日: 2020/07/17 メディア: Kindle版 つまら~ん。 『論考』の世界観をパロディしたというよりは、論考を最大限に誤読したアホの世界観をパロディしたようなかんじがする。論考の独我論を現象…

パオロ・ジョルダーノ『素数たちの孤独』

素数たちの孤独 (ハヤカワepi文庫) 作者:パオロ ジョルダーノ 発売日: 2017/02/28 メディア: Kindle版 ハヤカワ epi ブック・プラネットという海外文学の叢書がかつてあって、2007 年から 2010 年のあいだに 16 冊刊行して終わった。名前からして明らかなよ…

David Foster Wallace "Good Old Neon" について(続き)

前回の続き。 2. Good Old Neon について(もうちょっと細かく) クリシェがクリシェとしての身分を獲得するのは、それらがあまりに明白に真実だからである。 ——デイヴィッド・フォスター・ウォレス(Infinite Jest, p. 1040) 2.1 GONe と明白な隠喩 隠し立て…

David Foster Wallace "Good Old Neon" について

0. David Foster Wallace について デイヴィッド・フォスター・ウォレス David Foster Wallace (DFW) は 1962 年 2 月 21 日生まれのアメリカ人作家で、生年月日がチャック・パラニュークとおなじなのだが、パラニュークとの共通点は生年月日だけでない、実…

「生者の妻たち」?――ホーソーンの「死者の妻たち」における夢の不在について

以下はMark Harris の The Wives of the Living?: Absence of Dreams inHawthorne's "The Wives of the Dead*1" の全訳である。 「生者の妻たち」?――ホーソーンの「死者の妻たち」における夢の不在について マーク・ハリス 不相応にも無視されてきた「死者…

『宇宙の妖怪たち』

宇宙の妖怪たち (1958年) (ハヤカワ・ファンタジイ) 作者:中村 能三 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 1958 メディア: 新書 銀背。函つきで 200 円だったので嬉しくなって買ったが函を綴じてるホチキスが錆びてて本の地がつぶれてたりした、悲しい。函は輸…

『なめらかな世界と、その敵』

なめらかな世界と、その敵 作者: 伴名練,赤坂アカ 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2019/08/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 「なめらかな世界と、その敵」 ★★★★ 葉月*1はなぜK056をばらまくという決断をしたのだろうか。幼馴染のマコト…

フランク・ノリス『マクティーグ』

マクティーグ (ルリユール叢書) 作者: フランクノリス,Frank Norris,高野泰志 出版社/メーカー: 幻戯書房 発売日: 2019/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 読んだ。面白かった~~。ルリユール叢書は(いちおう前に出た二冊も買ってあるの…

陸秋槎『元年春之祭』について

元年春之祭 (ハヤカワ・ミステリ) 作者: 陸秋槎 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/09/15 メディア: Kindle版 この商品を含むブログを見る ネタバレ注意:未読の人間が読んでも得るところは一つもないので興味本位で見ることも薦めない。 要約:本書は…

『危険なヴィジョン 1』

危険なヴィジョン〔完全版〕1 (ハヤカワ文庫SF) 作者: レスター・デル・レイ,ロバート・シルヴァーバーグ,フレデリック・ポール,フィリップ・ホセ・ファーマー,ミリアム・アレン・ディフォード,ロバート・ブロック,ハーラン・エリスン,ブライアン・W・オール…

米沢穂信『I の悲劇』

Iの悲劇 作者: 米澤穂信 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2019/09/26 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る ネタバレ注意(ていうかここは常にネタバレとかそういうのを一切気にしない)

『中世思想原典集成 精選 6』

中世思想原典集成 精選6 大学の世紀2 (平凡社ライブラリー) 作者: 上智大学中世思想研究所 出版社/メーカー: 平凡社 発売日: 2019/09/12 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る トマス・アクィナス「知性の単一性について」De unitate intellectus co…

『カート・ヴォネガット全短篇 2』

カート・ヴォネガット全短篇 2 バーンハウス効果に関する報告書 作者: カートヴォネガット,大森望,100%ORANGE,浅倉久志,伊藤典夫,宮脇孝雄,円城塔,鳴庭真人 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2018/11/20 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 10 …

スティーヴン・ミルハウザー『私たち異者は』

私たち異者は 作者: スティーヴン・ミルハウザー,柴田元幸 出版社/メーカー: 白水社 発売日: 2019/06/25 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 9 月 29 日読了。 「平手打ち」★★★ 裕福なサラリーマンが住む町に「連続平手打ち魔(シリアルスラッパー…

『信念の呪縛』

0. わたしは意外と*1オカルトやスピリチュアル系や新宗教や疑似科学が好きなたちだ。本棚の最下段にはとうぜんエリアーデ・オカルト事典と新宗教事典があるし*2、辛酸なめ子のスピリチュアル系図鑑もよく読む。それでいて、大本神諭も人間革命も一行だって読…

ウィリアム・ギャディス『JR』と四角のうちにすむ芸術家たち

——三年がかりで模索し洗練し修正し拒絶し選択し続けてできあがった文章が、あかの他人に、三十分にも足らない時間で、味わわれたり、読まれたりするポール・ヴァレリー JR 作者: ウィリアム・ギャディス,木原善彦 出版社/メーカー: 国書刊行会 発売日: 2018/…

「マジック・フォー・ビギナーズ」、読むこと、演じることと解釈すること

マジック・フォー・ビギナーズ (ハヤカワepi文庫) 作者: ケリー・リンク,柴田 元幸 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2012/02/29 メディア: 文庫 クリック: 21回 この商品を含むブログ (16件) を見る 0. アメリカの家庭はしょっちゅう崩壊しては再生する。…

「クリアリー家からの手紙」と SF の読者(翻訳)

「クリアリー家からの手紙」と SF の読者 ジョン・ケッセル (SHORT FORM, vol. 2, issue 1, June 1989) (コニー・ウィリスの短編小説「クリアリー家からの手紙」について SF 作家/批評家のジョン・ケッセルが書いた批評文、"‘A Letter from the Cleary's’ …

『未必のマクベス』の文体論

未必のマクベス (ハヤカワ文庫JA)作者: 早瀬耕出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/09/21メディア: 文庫この商品を含むブログ (1件) を見る(※この文章は第二十五回文学フリマにおいて東京大学新月お茶の会会誌『月猫通り 2158号』を購入された方に配布し…

シャーリイ・ジャクスン「くじ」について

完璧な短編小説とはなにか? そう問われたらわたしは悩んでからシャーリイ・ジャクスン「くじ」*1を挙げると思う。 くじ (ハヤカワ・ミステリ文庫) 作者: シャーリイ・ジャクスン,深町眞理子 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2016/10/21 メディア: 文庫 …

繋がれた犬に二回も咬まれるなんて

『夫婦の中のよそもの』を読んだ。著者のエミール・クストリッツァと言えば知らぬものはいない名映画監督であるが、というか、あるらしいが、ともかくわたしも名前は知っている。映画は観たことがあることになっている。でもどちらかといえばノー・スモーキ…

いまさら、いまさら翼といわれても、といわれても

米澤穂信『いまさら翼といわれても』を読んだ*1 米澤穂信の(とくにさいきんの)小説をほめるのはとても難しくて、それはいわゆる美人さんをほめるときのあの難しさに似ている。要素をつかみ出してみれば特に目新しいところはない。この鼻の曲線が……とか、こ…

読書感想文『ごん狐』(あるいは、火縄銃の煙はなぜ青いのか)

先日田舎に帰った際、久々に会った親戚の小学生(四年生)が「ごん狐」の感想文をこしらえるのに困っていると訴えてきた。 読書感想文を書くのがうまかった(内容がよい、というよりは書くスピードが速い)わたしはかれの訴えに共感できず、へえ~そうですか…

ハーラン・エリスン「死の鳥」(とすっぱい葡萄)について

愛って何か知ってる? ああ、知ってるとも。 少年は犬を愛するものさ。(「少年と犬」) ハーラン・エリスン『死の鳥』(早川書房、2016)を読んだ。 表題作である「死の鳥」を読んで感じたことを少し書く。文章が散漫なのは自覚している。直したいので気づ…